導入前の背景・課題
呉工場で製造している品目とWiseImagingを導入したラインをお聞かせください。
当社は大まかに、表面処理鋼板、物置を含む各種建材商品、グレーチング、および金属ロールを製造しています。呉工場は鋼板を製造する工場であり、WiseImagingはめっき鋼板を製造している連続めっきラインの検査工程に導入しました。
連続めっきラインとはどういったラインなのでしょうか。
まず、めっき鋼板について説明させていただきます。当社が製造する鋼板は家電や建材などの素材となるもので、1母材の重 量は 約20トン、幅は最大約1,300mm、厚さは0.2 ~ 3mm程度。現物は1枚の長い板状になっています(写真1)。お客様の多くは、設備に鋼板を投入して連続加工するため、鋼板にはある程度の長さが求められます。
鋼板は加工性に富んでいる半面、錆びやすいため、めっきや塗装を行う必要があります。連続めっきラインは亜鉛めっきを鋼板に施すラインで、連続と名が付く通り、24時間連続して鋼板を流しながらめっきを施し続けるラインです。ただし、24時間同じものが流れ続けているわけではありません。当社は少量多品種生産に対応しており、母材ごとに製品の仕様が変わります。
連続めっきラインの作業員は、1つの班に6名が所属しており、三交替で勤務しています。このなかで特に重要な役割が検査員です。欠陥の発生を監視しながら、もし欠陥を確認した場合には、状況に応じて対処する必要があります。言わば司令塔のポジションとなりますから、検査員は経験豊富なリーダークラスが担うケースが多いですね。
呉工場 技術開発部 製品開発グループリーダー(兼)
生産技術グループ 表面処理チーム
リーダー 八重樫 光氏
アナログな検査からの脱却
大きな課題が2つありました。一つ目は、お客様によって製品に対する要求品質が異なるということです。このため、NGと判断する基準を複数の種類に分けていました。これは、各判定基準を検査員が詳細に把握するということであり、検査作業の負担になっていました。そこで、負担を軽減できないかと思案していました。
もうひとつは、検査員の目に頼るアナログ的な検査方法です。目や体の疲れなどで欠陥を見逃してしまうケースを心配しています。加えて、連続めっきラインはもっとも速いときに毎秒2.7mで流れていくため、人間の目で追うこと自体が難しいという側面もあります。
そこで、人間の目だけではなく、機械による支援も必要と考え、2000年頃に疵検査装置カメラによる検査を導入しました。画像の中の明暗コントラストで警報を出す仕組みですが、欠陥ではない部分 でも警報が鳴る誤検出があります。検査精度を向上させることにおいて、疵検査装置は大きな役割を果たしていますが、最終的には人間が見て判断するフローをゼロにすることができずにいました。
当社 としても、製品に欠陥が混入しないよう最善の努力をしています。お客様によっては、欠陥ゼロを要求されることがあり、これにお応えするための改善を続けておりますが、そう簡単ではありません。なぜなら、化学反応でめっきしている際、なんらかのはずみで微量の異物が混入したり、操業条件が変動すると欠陥が発生してしまうことがあり得るからです。
ですから、常時お客様と協議を重ねつつ、品質向上に努めていますが、検査方法についてもなんらかの対策をしなければならないと考えていました。
製品の比較・検討
AI製品の比較・検討はされたのでしょうか。
弊社のIT担当部門と相談したところ、大手ベンダーから、AIを導入するには数千万円かかると聞きました。得られる効果が未知の状態で、この金額のものを導入することは難しいと感じました。
大手ベンダーの対極に位置するベンチャー企業も検討しようとしましたが、そもそも接点がなく、どこに声をかけたらいいか分からない状況でした。また、長期にわたって使い続けることを想定していますから、事業継続性に不安がないことも評価すべきと考えており、お声がけするまでに至りませんでした。
シーイーシーのWiseImagingはどのようにして知ったのでしょうか。
弊社のIT担当部門と相談したところ、大手ベンダーから、AIを導入するには数千万円かかると聞きました。得られる効果が未知の状態で、この金額のものを導入することは難しいと感じました。
2019年の夏頃、弊社のIT担当部門からシーイーシーを紹介していただきました。
東京証券取引所プライム市場に上場する独立系システムインテグレーターということで興味が湧き、お会いさせていただくことにしました。
当初、AIは色んなことができるのだろうという想像はありましたが、具体的に我々の業務にどのように活用できるかイメージはありませんでした。よって、シーイーシーからWiseImagingの話を伺っても疵検査装置や画像診断にどう結びつくのか想像できず、連続めっきラインの課題についても頭にありませんでした。
新しい技術を導入するには、推進者がその技術を理解することが重要であり、知ることにより自信をもって推進できるため、あらためてAI技術について独自に調査しました。AI専門のエンジニアが社内にいないため深く理解するには至っていませんが、シーイーシーが話されていた内容は、我々の想定するAIのイメージに一致しており、信頼感が高まりました。さらに検討を進めるなか、AIによる画像識別が欠陥の判定に使えるのではないか?と考えるに至りました。コストについても、現実的に導入可能な範囲内だったため、まずはWiseImagingのトライアルを実施することにしました。
トライアルの経緯をお聞かせください。
トライアルは2回行いました。1回目は2019年冬に実施。5パターンほどの欠陥画像を10枚ずつ用意し、シーイーシーに送って判別できるかどうかの確認をしていただきました。予備の学習をせず、まっさらなAIのみでしたが、とりあえずOKとNGの判別ができることが分かりました。
2回目は2020年の夏に実施しました。2回目はトライアルの規模を大きくし、NGを分類できるかどうかにチャレンジしました。欠陥パターンごとに用意した画像は約100枚。計1,000枚近い画像をシーイーシーに送り、画像を読み込んで学習させる形で確認していただきました。
シーイーシーを選定した理由をお聞かせください。
2回目のトライアルでは、90%を超える認識率が得られました。これだけの精度があれば、インライン化が可能と考え、2021年12月、正式にWiseImagingを導入することにしました。
もちろん、さらにAI製品を比較・検討することもできたかもしれませんが、トライアルで一定の成果が得られましたし、費用についても納得できる内容を提示していただきましたので、比較・検討に時間を費やすよりも、導入して使い始めることが肝心と判断しました。
導入後の進捗
導入後の進捗状況をお聞かせください。
シーイーシーからWiseImagingに学習させるコツをレクチャーいただき、欠陥画像の撮影から画像の選択、学習まですべて当社で行いました。学習させた画像はトータル4,000枚以上。しかも、4,000枚の画像のもとになった画像は10万枚以上ありました。検査精度を上げるためとはいえ、10万枚の画像を1枚ずつチェックし4,000枚をピックアップするわけですから、その作業は本当に大変でした。
なぜそれだけの数の画像を学習させる必要があったのででしょうか。
欠陥の分類が難しいことに尽きます。例えば、亀裂はすぐに見分けらますので多くの画像は必要としませんが、めっき鋼板特有の欠陥である不めっきやドロス、そして汚れなどは外観が似通っている場合があって判別が難しく、より多くの画像を要しました(写真2〜4)。
欠陥であるNGを細かく分類する理由は、品質向上のためです。どんな欠陥がいつ発生したかを細かく分類して記録していけば、原因究明に利用することができると考えています。原因究明を欠陥の発生を防ぐ第一歩とし、品質向上につなげたいと考えています。
先ほど申し上げた通り、会社の方針として新しい技術の導入を積極的に検討・導入する流れもあり、WiseImagingの導入、精度向上作業は弊社内でも注目度が高いです。画像収集作業の苦労はありますが、やりがいのある仕事だと感じています。
現在の精度はいかがですか。
現在も精度向上のため、画像収集とWiseImagingへの学習を行っていますが、半年が経過してNGの分類が90%を超えるところまで到達しました。90%はインライン化のボーダーラインだと思っていましたから、ようやく次のステップが見えてきました。
インライン化後の検査システムは、疵検査装置のカメラで撮った画像をWiseImagingで判定し、その結果を基に疵検査装置が警報を鳴らす判定をするという仕組みです。条件は整ってきたので、あとはわずかな微調整をしながらという段階に達しています。予定では、2~3カ月後にはインライン化したいと考えています。
今後の展開と期待
WiseImagingによる新たな検査システムに期待することをお聞かせください。
まずはお客様に迷惑をかけないことですね。我々が欠陥を流出させてしまったら、お客様の設備を止めてしまう、あるいは最終ユーザーからのクレームなどにつながりかねません。検査体制の強化とともに品質向上にも努め、今まで以上にお客様に信頼される淀川製鋼所でありたいと思っています。
検査精度が向上し、検定室での人による常時確認が不要になれば、検査員の作業負担を大幅に軽減できると期待しています。取り組み始めたばかりですが、近い将来には実現したいですね。
WiseImagingの横展開は考えていらっしゃいますか。
連続めっきラインでWiseImagingによるAIの検査システムが軌道に乗れば、同じような検査を行っている塗装ラインにも導入したいと考えています。また、他工場への展開も想定しています。当社は呉工場以外に大阪工場、市川工場でも表面処理鋼板を製造しています。これらの工場とは、呉工場がAIに取り組んでいることを共有しており、連携して取り組んでいきたいと考えています。
シーイーシーの対応についてはどのように評価されていますか。
広島県呉市という立地、そしてコロナ禍ということもあり、対面でサポートしていただくことが難しく、電話やメールだけであれば困難を極めていたと思います。しかし、幸いにも現在はリモートによるミーティングが可能です。シーイーシーにはリモートミーティングに快諾をいただき、大変感謝しています。
実際、Microsoft Teamsを活用したミーティングにより、欠陥の説明も端的に行うことができました。リモートミーティングとシーイーシーのフレキシブルかつ的確なサポート対応があれば、日本全国どの地域の工場でもWiseImagingを導入できるのではないでしょうか。
呉工場 製造部 表面処理グループ
鍍金チーム 武智 琢磨氏
工場としてSDGsへの取り組みは欠かせないものかと思いますが、
今回のWiseImagingの導入はSDGsへの貢献は期待できそうですか。
欠陥の原因調査にWiseImagingを活用することが、SDGsへの貢献につながると考えています。欠陥を減らすことができれば、歩留まりの向上につながります。歩留まりの向上は、省資源、省エネルギーに直結すると考えています。
これをSDGsに置き換えると「12.つくる責任 つかう責任」に貢献できるのではないかと考えています。もちろん、歩留まりだけでなく、工場の稼働におけるあらゆるところに目を配り、少しでもSDGs達成に貢献できるように、これからも取り組んでいく所存です。