導入事例:EdaGlass
アイシン・エィ・ダブリュ株式会社 様
「聴覚に障がいを持つ従業員と円滑なコミュニケーションを図るため
EdaGlass(エダグラス)の活用実証実験を実施中。
ライン外教育で大きな成果が見込めそうです」
オートマチックトランスミッション(AT)やカーナビゲーションシステムなどを開発・製造・販売する世界最大級の自動車部品メーカー、
アイシン・エィ・ダブリュ株式会社 製造本部の皆様に、EdaGlass(エダグラス)活用実証実験の取り組みについて詳しく伺いました。
導入ポイント・導入効果
- 保護めがねタイプのスマートグラスで指示者の声を文字で認識
- 56時間かかっていたライン外教育の研修が33時間に大幅短縮
- 将来は議事録を自動作成するツールとしても使いたい
実用的な活用を目的としたEdaGlassで活用実証実験を実施中
シーイーシーの製品で取り組んでいることを教えてください。
聴覚に障がいを持つ従業員と円滑なコミュニケーションを図るため、指示者(健聴者)が話した言葉を文字データに変換して聴覚障がい者がかけている保護めがねタイプのスマートグラス(山本光学製)に表示させたらどうか? シーイーシーのスマートデバイス/作業者支援システムEdaGlassを活用した実証実験を2019年8月から実施しています。
取り組み自体は2017年からスタートしており、当初はスマートフォンで文字の表示を行っていました。その後、現場から「実用的に活用できるもの」というリクエストがあり、現在の保護めがねのスタイルになりました。
導入したEdaGlassは5台、PoCは1カ月が経過したばかりで、こうしたツールでのコミュニケーション改善の施策は聴覚障がい者が対象。聴覚以外の障がいを持つ従業員に対しては、障がいの度合いを見ながらそれぞれの現場で対応しています。
製造本部 製造管理部 三沢氏
障がい者が生き生きと働ける環境づくりに取り組む
障がい者の雇用の取り組みについてお聞かせください。
当社は「ノーマライゼーション」という考え方に基づき、障がいの有無に関係なく職場で能力を発揮できる環境づくりに取り組んでいます。職場配属先についてはインターンシップなどを実施し、本人と職場のマッチングを確認して決定しています。障がい者を対象とした就職イベントにも積極的に参加しており、雇用は大幅に増加。生き生きと働ける職場づくりを目指し、障がい者配属職場の上司を対象とした「手話教室」「管理監督者教育」を定期的に開催しているのも当社の特徴です。
製造本部 製造管理部 鈴木氏
健聴者と聴覚障がい者がぶつかるコミュニケーションの壁
EdaGlassの活用実証実験を行うことになった背景をお聞かせください。
聴覚障がい者と健聴者における関係のなかで最大の問題となるのがコミュニケーションです。日々の業務では会話を必要とするシチュエーションが少ないため、それほど困ることはありませんが、社内で障がい者と接するなかでコミュニケーションの壁にぶつかるシーンは多々あります。
その1つは職制を上げるためのライン外教育です。聴覚障がいがあってもスキルやモチベーションが高い人には、会社として精一杯バックアップしたいという想いでライン外教育を行うのですが、やはりコミュニケーションの壁にぶつかります。例えば、健聴者なら月22時間で済む研修が、聴覚障がい者への研修となると月56時間、2.5倍もの時間がかかります。
朝礼やQC会議、打ち合わせの場においても、コミュニケーションの壁が邪魔をします。こうしたシチュエーションでは、筆談者が聴覚障がい者に話の内容を文字で伝えるのですが、筆談者は伝えるべきことを要約しがちで、逆に伝わらないケースが発生します。
要約せずに伝えれば良いのかもしれませんが、文字量の増加によって筆談者が話の内容を正確に把握できなくなる場合もあります。どちらにしても、聴覚障がい者が会話へ積極的に参加できる環境がつくれておりませんでした。
シーイーシーとの勉強会で紹介を受けたEdaGlassに期待
EdaGlassを知ったきっかけを教えてください。
シーイーシーとは長いお付き合いがあり、日頃から定期的な勉強会や交流会などを開催しています。そうした活動のなかで、「聴覚障がい者とのコミュニケーションを円滑にするツール」もしくは「ツールを使ってコミュニケーションを補助する仕組み」をつくれないかとシーイーシーに相談していました。
そこで、シーイーシーから紹介されたのがEdaGlassでした。言葉が音声認識エンジン※1を通じて文字に変換され、それがスマートフォンやスマートグラスに表示される仕組みは、まさに我々が求めていたものと合致すると思いました。早速、活用実証実験を実施する運びになりました。
※1音声認識エンジンにGoogle Cloud APIを利用
製造本部 第二工場 赤川氏
EdaGlassのアドバンテージは認識率の高さ
EdaGlassと同等の製品を検討・検証したことはありますか。
もちろん、活用実証実験の段階ですから、EdaGlassと同等の機能を持つ製品をいくつか試してみました。その結果、文字の識別値に圧倒的な差があり、EdaGlassが持つ音声認識エンジンの精度が優れているという結論に至りました。結局のところ、言葉が正しく文字に変換されなければ、現場で実用的に使うことはできません。この点でEdaGlassは大きなアドバンテージがありました。
EdaGlassとは
スマートグラスを用いて能力を拡張し現場作業を支援
現場では、人手不足により製造費が増大し、常に時間短縮や効率化が求められています。一方でその人手を補うため、聴覚障がい者や外国人などを雇用し、人材の多様化を推進する動きも出てきています。EdaGlassは、そうした現場において、言語や文化を越えて能力を最大化できるように現場作業者を支援。作業者の負荷軽減、オペレーションミスの削減、作業時間の短縮など、EdaGlassは即効性のある課題解決を提案していきます。
月56時間かかっていた研修が月33時間に大幅短縮
活用実証実験を通じてEdaGlassをどのように評価していますか。
活用実証実験は始まったばかりですから、現在までの感想をお話しさせていただきます。
教育ではEdaGlassが理解度を補完
まず、ライン外教育で検証したところ、月56時間かかっていた研修が月33時間で済むようになりました。以前は健聴者と比べて2.5倍かかっていましたが、EdaGlassを活用すると1.5倍に短縮された計算です。つまり、教育というシチュエーションでは、EdaGlassが非常に有効だと分かりました。
そもそも教育は、教材および資料が用意されているなかで行う場合が多いため、EdaGlassが補助的な役割を果たします。当社は教育ツールが充実していますから、EdaGlassで補完できれば、教育における聴覚障がい者の理解度はかなり進むと考えています。
誤解を招かない伝え方が大事
朝礼やQC会議などの場で検証するのはこれからですが、現在分かっていることは、伝える側(健聴者)と受ける側(聴覚障がい者)の伝達における理解が重要で、伝達の過程で認識の違いがあると誤解を招くということ。誤解させないためには、伝える側は「大きな声で」「ゆっくり」「しっかり」話す意識が大事だと感じました。
また、人によって音声の認識率がかなり変わってくることも分かりました。この部分はもっと検証する必要があると思っています。
話す場所も大事です。静かな場所なら高い認識率を示しますが、ここは工場ですので、大きな音がする場所がたくさんあります。音が大きい場所ではノイズキャンセリングの機能を設けるなどの対応策が必要かもしれません。
課題などがあればお聞かせください。
リアルタイムに音声認識を行い、いかに正確に伝えられるかが大事だと分かりました。リアルタイムという部分に関しては、ネットワークに依存する部分があり、Wi-Fiの速度も問題になります。つまり、当社におけるネットワークのレスポンス改善が急務だということです。幸い基幹ネットワークの見直しは始まっており、近いうちにネットワークのレスポンスは改善される見込みです。その際には、現在よりも会話のレスポンスはリアルタイムに近づき、実用化の加速度は増すと考えています。
EdaGlassを使ったライン外教育のシーン
保護めがね型スマートグラス
山本光学製「Versatile(バーサタイル)」
通常、切削加工機のラインでは、ワークの取り付けはロボットが行う。しかし、まれに取り付けに不備がある(ワークの取り付けが斜めになるなど)。その場合、アラームが発生するが、聴覚障がいを持つ従業員にはアラームが聞こえないことが多い。そうした事態を想定し、EdaGlassのPoCを兼ねながら復旧手段などを伝えるライン外教育を実施している。作業指示者(健聴者)の声はマイクからスマートフォンを通じクラウドの音声認識エンジンで文字データされ、スマートグラス内に文字データとして表示(①~④)。⑤のように文字データはパソコンにも転送される。
ライン外教育の研修時間/月
将来は会議の議事録作成や外国人労働者とのコミュニケーションに
現在の取り組みのほか、EdaGlassの活用が期待できるシーンはありますか。
以下、議事録用と外国人労働者向けというところでEdaGlassが活躍するのではと期待しています。
会議の議事録用
健聴者、聴覚障がい者という枠組みではなく、言葉を文字化できる機能性を考えれば、「会議の議事録用」としても活用できるのではと考えています。
会議の内容をその場で入力するにしても、後から音声を聞いて入力するにしても、リソースが必要なのは変わりません。ですから、EdaGlassが勝手に議事録を作成してくれれば、大きな効率化が見込めます。
もちろん、認識の精度が大きな問題として残っていますが、AI技術の進歩が著しい今なら、近い将来、実現できるのではと思っています。
製造本部 第二工場 角谷氏
外国人労働者向けの翻訳機能
次回のバージョンでは、外国人労働者向けの翻訳機能を搭載すると伺っています。当社の拠点がある中国やタイといった地域の雇用は増加。設計部門も入れると数百人ほどの外国人労働者が活躍しています。
こうした外国人労働者と円滑なコミュニケーションを図る場合、EdaGlassの翻訳機能が有効になるかもしれないと期待しています。ただ現在は、日本語を理解できる方を中心に雇用を進めている関係もあって、すぐに対応が必要というわけではありません。裾野を広げるという意味では、間違いなく翻訳機能に期待しています。
このほかシーイーシーからは、遠隔での作業指示や映像で業務を伝えるなど、EdaGlassのさらなる機能拡張の可能性を伺っています。スマートグラスは視野を邪魔しないということが重要と考えていましたので、当面のところは機能拡張の部分には手を出す予定はありません。しかし、機能拡張が現実化されれば、あらためて活用シーンを検討する価値はあると思っています。
製造本部 第二工場 小島氏
今後もシーイーシーとともに現場に貢献できる施策を提案していく
最後にシーイーシーに対する今後の期待をお願いします。
EdaGlassの活用実証実験から劇的な効果を得るまでには、まだまだ多くの検証を重ねていく必要があると思っています。そうした当社の取り組みに対し、真摯に向き合ってくれるシーイーシーの姿勢には感謝しています。先に進むことなく、遅れることもなく、常に二人三脚で進んでくれますから、実用化に向けて着実に歩んでいるのが分かります。
我々としては、今後もさまざまな取り組みを通じ、少しでも現場に貢献できるような施策を提案していきたいと思っています。そのためには、シーイーシーの技術とノウハウは欠かせません。今後とも変わらないサポートを期待しています。引き続き、よろしくお願いします。
使用者の
感想
聴覚障がいを持ちながら、高いスキルとモチベーションで工場には欠かせないキーパーソンとして活躍中の製造本部 第二工場 高見氏に、EdaGlassに対する感想を伺いました。
私の場合、読唇ができますから、実はそれほどコミュニケーションは苦になりません。
でも、EdaGlassがあれば「確実に伝わる」という点で有効だと感じました。認識率や変換スピードが向上すれば、現場の伝達手段として実用性が高いと思います。
※製品名・企業名・役職名など、記載の情報は取材時のもので、閲覧時には変更されている可能性があります。
「品質至上」の経営理念のもと、オートマチックトランスミッション(AT)専門メーカーとして1969年5月に設立されました。常に業界をリードする商品づくりに努められ、カーナビゲーションシステム分野では先駆者的役割を果たしています。同社の製品は国内だけでなく、世界中の自動車メーカー、カーエレクトロニクスメーカーに採用されています。
- 設立
- 1969年5月15日
- 代表者
- 取締役社長 川本 睦
- 主要製品
- オートマチックトランスミッション、ハイブリッドトランスミッション、カーナビゲーションシステム
- 従業員数
- 連結 27,778名(2016年3月31日現在)
- 本社所在地
- 愛知県安城市藤井町高根10番地
- URL
- https://www.aisin.com/jp/